経済学部ゼミブログ

2024.06.07
- 経済学部
【テスト】20240607経済学部ブログ詳細「全学科共通」のコピー
学科・専攻・活動で「全学科共通」を選択しました
ある中年の商人は、夜、東海道線の踏切を通って、無残な女の轢死体 を見たが、まだ弥次馬 が集まって来ない、たった一人の時、妙な洋服男が死体の側をウロウロしているのを見たという。その男もやっぱりソフト帽をまぶかにして、外套の襟を立てて、顔を隠す様にしていたが、商人は朧 な月光でその顔が金色 に光るのを確かに見た。
いやそればかりではない。無表情な黄金仮面の口から顎にかけて、一筋 タラリと真赤 な液体が流れ、その口が商人に向って、ニヤリと笑いかけたというのだ。
又、一人の老婆は、ある真夜中、自宅の便所の窓から、外の往来をスーッと通り過ぎた金色燦爛 たる一怪人を見た。それは前の二つの例とは違い、顔ばかりではなく、全身まばゆいばかりの金色で、仮面の外 に何か透通 る様な薄い黄金製の衣裳を着ていたらしいということであった。
殆 ど信じ難い奇怪事である。若 しかしたら、耄碌 した老人の幻覚であったかも知れぬ。だが本人は確かに阿弥陀 様の様な尊 い金色の人を見たといっている。
その外数限りもない風説を、一つ一つ並べ立てるのは無駄なことだ。兎 も角 、一時はこの時代錯誤な幽霊話が、東京市民からあらゆる話題を奪ってしまった。幽霊話とは云い条 、少くとも十数人の精神健全な人々が、日を違え場所を変えて、確かにその黄金仮面の人物に出会っている。このお伽噺 には、打消すことの出来ない実在性があるのだ。
何かしら恐ろしい天変地異の前兆ではないかと云う者もあった。いや、石が降ったり、古池で赤坊の泣声がしたりする妖怪談と同じで、洗って見ればたわいもない悪戯 に過ぎないのだという者もあった。
いやそればかりではない。無表情な黄金仮面の口から顎にかけて、
又、一人の老婆は、ある真夜中、自宅の便所の窓から、外の往来をスーッと通り過ぎた
その外数限りもない風説を、一つ一つ並べ立てるのは無駄なことだ。
何かしら恐ろしい天変地異の前兆ではないかと云う者もあった。いや、石が降ったり、古池で赤坊の泣声がしたりする妖怪談と同じで、洗って見ればたわいもない